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2022年10月17日 (月)

上手い加工について考える

刃物の機械研磨を行う場合に、色々な考え方があると思いますが、私はいつもお話をしている通りで、実用を重視しています。

その実用をどう考えるかですが、単純に研いで使いやすい状態という表現では、分かりにくいと思います。

では、具体的にはどんな事が実用として、明確に違うのかという事を、少しだけお話をします。

まず第一に、形から見て行きましょう。

見た目が綺麗な形と、実用で研ぎやすい形は、だいぶ差がある場合があります。

分かりやすい所で言うと、例えば、和包丁の刺身系の包丁があったとします。

長物で片刃ですが、これで見て行くと、裏側は裏鋤(うらすき)がされてある部分に対し、べた研ぎを行う必要性がありますので、そこに対しての反りやねじれの修正を行い、砥石に裏を素直に当てた際に、綺麗に刃側の輪郭(理想は峰側も)が出てくれる事が理想です。

そして、表面には鎬(しのぎ)がありますので、刃先から鎬までの広い面を、砥石で綺麗に当てられるようにする必要があります。

それらをただ組み合わせただけだと、綺麗に研いで行っても、どんどん形が崩れます。

それは、製造に対する加工と、研いで使う事での減りとが、マッチしていない事が影響されます。

当方で加工をしたものは、均等に研ぎを進めると、型崩れが起こりにくくなった!というご意見を多く頂いていますが、実際に手研ぎで研いで使う側にいた者ですから、一般的にどのような研ぎをされる事が多いのかを、ある程度まで把握していますし、それを踏まえての特殊な加工を、色々な部位に施しているからです。

一般的に売られている刺身系の包丁は、機械加工で終わっていますし、手作業が含まれたとしても、形や見た目を優先されている事が多いので、平面の砥石で研いで使う事を考えると、形が崩れて行ってもおかしくはないのです。

それに気付いている人が、いるかいないかは分かりませんが、加工する側がやりやすい方法を取るのではなく、実際に自分で研いだ時に、おかしなことになるかどうかを、考えたり感じれば、その形はおかしいと気が付きます。

初期段階では良くても、どんどん崩れていくようでは、理想の形では無いという事です。

私の加工品は、見た目での完全体を目指すものではないので、所々に不足を感じる場合もあるかもしれませんが、結構長い事、研ぎでの苦労から解放される事が多いはずです。

自然に研いで、自然に形が維持出来たり、刃付けがしやすいとなれば、無駄な苦労が減りますから、それが理想だと思っています。

色々なご依頼の中で、どう考えてもこの形では砥石で研げない・・・というものも、結構存在しています。

そういった場面で、加工を自由に出来るのであれば、いつでも同じ条件を作り出して研げば、同じような結果になるように、形を作っています。

どんなに丁寧にやっても、色々なコツを使わない限り、いずれは型崩れは出てくるものですから、仕方がない事ですが、それが早いか遅いかは、大きな差です。

また、新品時やそれに近い状態と、減ってからの状態というのは、加工も性能も、求められるものが色々と変わるので、それに合わせた加工も、考えながら行っています。

研ぎ修理での依頼は、結構大掛かりになってしまう事が多く、削り量を増やさないと、まともに使えない事もあります。

特に、全面削りが必要な場合で、全体的に悪化率が高いと、加工をしないで諦めるか、短期間でもまたまともに使えるようにするか、選択肢が難しくなる事もあります。

それを知らずに、加工を見ただけだと、こんなに削っちゃって・・・と思う方もいるかもしれませんが、求められた内容に合わせ、加工や調整を行う場合、そもそもが初期段階となる製造時から、鋼が薄いとか、入りにムラがあるとか、厳しい事もあるので、そういったものは、将来の加工幅が無いと考えると良いと思います。

ですので、この話の流れで言うと、和包丁の頻繁に研いで使う刺身系の包丁は、本当の意味で長く使いたい場合、全鋼や本焼を買っておいた方が、寿命は長いです。

研ぎで小さくなって、使用を終えるまで、加工を一切、行わずに使い終えられるのであれば、大きな問題はありませんし、霞でも本焼でも、最終的な使用期間は同じかもしれません。

しかし、加工修理を必ず行う事を考えた場合、加工回数に限界が近い霞は、思っている程、コスト性が良いものではないと言えます。

初期投資が安いという事や、切れ味が特別違う訳ではないので、その辺りは良い点とも言えますが、こういった考え方をしてみると、高いと思っていた本焼や全鋼も、意外と安く感じられると思います。

最後は話しが反れてしまいましたが、加工はただ形通りに行うだけが、上手い下手ではないという事も、考えて頂くきっかけになればと思います。

 

 

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