先日、お客様からのご依頼で、ある刃物の新品を研いでほしいとの事でした。
実物を拝見すると、結構綺麗に仕上げてあって、一般で言う所のいわゆる「よく切れそう!」な状態です。
しかし、全く切れないに等しいとの事で、刃や研ぎの状態を良く確認すると、いくつもマイナス面が見つかりました。
まず刃先にあるはずの「刃がほぼ無い」状態です。
これに関しては、その刃付けだけの問題ではなく、次に挙げる「面の構成が悪い」に繋がります。
研ぎを行った面の構成が、切れる要素を潰す形状となっており、手研ぎでやったというのは見て分かりますが、とにかく構成が悪い。
使った砥石に関しては、手磨きを入れてあるので分かりませんでしたが、砥石の面修正はそれなりに行っている感じでした。
また、部位ごとに刃を構成する部分の厚みにバラツキがある事から、研ぎが安定していない事も分かります。
当方でもお客様のご依頼に合わせ、似たような作業をする事は良くありますので、やろうとしている事は分かりますが、それじゃない感が非常に強く、高額を払っての新品に対する仕上げだったようですから、お客様はかなりガックリと来ている感じでした。
私が同じ立場だったら、それなりに金額をかける意味を考えれば、やはり同じ思いになっていたと思います。
たまたま作業をした人の当たり外れなのか、そこでの仕上げレベルはそれが限界なのか、それっぽくだけ見せて誤魔化すのがやり方なのか、その辺りははっきり分かりませんが、多分やり直しをお願いしても、良くはならないでしょう。
刃物が何かを切断する事に関しては、切る為の要素を研ぎに含める必要性がありますが、これはこのブログや直接ご来店を頂くお客様にも、ご説明の中で頻繁にお話をしている事です。
ただこう研いでこう磨いてこう刃付けをする・・・と教わったところで、その技術には何も価値がありません。
今回のような例はかなり多く、名前のあるメーカーや職人による作業だと、それに文句を言いにくいという方もいらっしゃいますし、自分が間違っているのではないかと、悲観的になってしまうお客様もいらっしゃいます。
私自身も、過去からそういった経験を使い手側で感じる事がありましたし、そういったお客様に現実をお教えしたり、実際の技術であるべき姿を感じて頂くようにしていますから、ある意味では得意分野とも言えます。
もちろん、お客様側の見解や求める部分がおかしいケースもあるので、全て作業をした側が悪いとは言いません。
これは、他を悪く言う為の材料にしているとかではなく、実際にお客様がお代を支払い、それに見合った対価を得られていない事のお話でしかないので、世の中の刃物業界を見て、こういう現実を知る意味では、非常に有効な資料だと考えています。
なぜこういうお話をするのかというと、もう一つ理由があり、私自身も逆にお客様がお持ちになられた刃物から、他での作業品を拝見し、学ぶ事がありますから、私が全て正しいと言っている訳でもありませんし、お互いにそういう事はあるだろうと思い、自分への戒めでもあると思っているからです。
お客様としてご利用を多く頂いている方は、なんとなく濁したお話や、気を遣った話をされても、現実を知る事は出来ないので、良くも悪くもはっきり言って欲しいと言われる事が良くあります。
それは、お客様自身が現実を知りたがっており、そこから学べるものを大事にしたいという考えの表れですから、私はその為には良い事も悪い事も自ら受け入れつつ、出来る限り正しい情報や、お客様に合った方法をご提案する事に繋げています。
メーカーや技術の業者に言える事は、まともに出来ない職人に、重要な仕事をやらせるべきではないという事です。
そこでは新人や次のステップに進む為、勉強の為にはどんどんやらせなければいけないという部分はあるかもしれませんが、お客様からすれば一流の職人が作業をしても、まだレベルが低い職人が作業をしても、お支払いする額は同じはずです。
その時にお客様からの評価がこのようにマイナスになれば、どんどん評判は落ちますし、二度とそこの話や商品や技術を信用する事は無くなりますし、お客様はこのような悲しい思いをする事になります。
その仕事を任せても問題が無いレベルになるまで、実際にお客様のその仕事をさせる事なく、今まともに出来る他の仕事をしつつ勉強を別でして、その評価を正しく見てから、お客様の同じ仕事をやらせるべきと思います。
もしくは、その仕事を熟知している職人が、しっかりと面倒を見る事で、遜色なく作業する事が出来るようにするなど、そういった事も大切だと思います。
良くあるのは、指導する人自体の作業がとても上手いとしても、教える事は下手で正しく下が育たないとか、検品をする係の人の基準が甘く悪い状況を見抜けず悪いものが商品として出てしまう事が多いなど、その手の話は本当に良くあります。
一人仕事でやっている場合、この手の話はほとんどない事で、状況次第ではあると思いますが、誤差範囲で収まる事が多いのです。
最終的な結果でお客様は評価をするものだと私は考えていますから、最初にどんなに疑うような事や、細かく面倒な事を言われようとも、良かったと言って頂ければそれで解決だと思って作業をやっています。